【店長コラム】「尽力」と「法規制」の「境界線」 〜家族にしかできない決断〜

1.動物取扱業責任者研修での学び

先日、「動物取扱業責任者研修」を受けた際に、無資格者による医療行為の禁止について改めての注意喚起がありました。

2019年に「愛玩動物看護師法」が制定・施行されたことにより、有資格者による独占業務の線引きは以前よりもさらに明確になっております。本日は、この最新の動向をふまえ、ペットシッターが直面する「職域を超えてしまう危険性」と、私たちが守るべき境界線についてお話ししたいと思います。

 

​2. 「良かれと思って」が招く二つのリスク

シッターとして「できる限りの尽力をしたい」という想いは当然あります。しかし、その想いが以下の二つの「壁」を越えてはなりません。

 

​専門性と法律の壁(医療行為、動物取扱業): 病気の診断や治療方針の示唆は、国家資格を持つ医療従事者の独占領域です。

 

​第一種動物取扱業の遵守: 登録内容に含まれない「医療的な介入」を無資格で行うことは、動物取扱業の遵守事項に反する重大なコンプライアンス違反となります。

 

道路運送法の壁: 黒ナンバー(営業許可)のない自家用車で、対価を得て動物を運ぶことは「白タク行為」にあたります。

 

​権利の壁(意思決定): そして何より、状況を把握した上で「受診させるかどうか」の最終的な決断を下せるのは、法的な権利と責任を持つ、契約者様、ご家族様です。

 

​3. 福祉・医療現場に見る「職域」の守り方

例えば、対人援助職における職域についても触れながらお話してまいります。

 

​ヘルパーと看護師: ヘルパーが生活を支え、看護師が医療を担う。専門外が手を出さないことこそが、対象者を最も守ることになります。

 

​介護施設の現場: 高齢者介護の現場でも、緊急時を除き、定期受診の付き添いは原則として「ご家族の役割」です。代行する場合も、施設が「福祉輸送」等の適切な法的許可を得た車両を使用し(いわゆる白タクではない状態)、人件費や車両代を別途徴収するなど、責任とコストの所在が極めて明確に分けられているところが多いようです。

適切な許可や届け出なしに、善意やサービスの一環で「運びますよ」と安請け合いすることは、プロの現場ではあり得ない「法的一線」の逸脱となります。

また、介護施設では、入所判定なるものがあり、施設の機能や現状と入所者様の状態やご意向(医療依存度も含む)等様々な事項を鑑み、会議した上で、受け入れの可否の判断をいたします。これらを無視し全てを受け入れてしまえば、崩壊します。入所後も、例えば、その施設の状態では対応できない状況、仮に医療依存度が高くなった場合に、入院や他施設へ移ることもあります。逆に、状態がよくなり、退所いただき、ご自宅へお帰りになられる方もおられます。

 

​4. プロとして「権限」を正しく認識する誠実さ

私には、大変心苦しいですが、医療的判断を下す権限も、家族としての決定権もございません。

これは実力不足ではなく、自分の「職域(ライセンス)」と、ご家族の「権利」を正しく認識・尊重しているからこそ言えるプロの言葉です。この一線を守るからこそ、ご家族に「決断」というバトンを正しく渡すことができるのです。

 

​5. 「手段」は「決断」の後に付随するもの

「どうやって運ぶか(方法)」の説明がないから「受診(決断)」ができない……それは順序が逆です。まずは家族が「何があってもこの子を救う」と決断すること。輸送の法的リスク(白タク行為の禁止や、無償ボランティアゆえの無補償)といった議論は、その強い決断の後に初めて成り立つ「方法論」でしかありません。

​6. 結び:本当の「命を守るチーム」とは

シッターにできるのは「異変の報告」と「プロとしての提言」まで。しかし、最後の一線を引き受ける「家族の決断」が遅れたり、見送られたりすることで、結果として病状が悪化したり、命が脅かされたりする事例も、世の中には存在します。

​最後に命を救うレバーを引けるのは、その子の世界で唯一無二の「家族」だけです。

大変お辛いことかと思います。仮にもご自身ではない、声なき声に耳を傾け、意思を言えないペットさんのことを決めなくてはならない。これは、大変苦しく、悩まれることであることは承知であるが故に、私も心苦しく思います。

「最大限の尽力はしたい。ただ、法律違反もするわけにはいかない」

この一線こそが、預かった命を本当に大切にすることだと信じています。